特性
曝露の影響
既存のガイドライン
火山における事例
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特性
二酸化炭素(CO2)は、無色無臭の気体です。 不燃性で化学的に安定しています(Sax and Lewis, 1989)。 CO2は、大気の1.5倍の重さがあります(25℃、1気圧における密度は、1.80 g L-1 (Lide, 2003))。 ゆっくりと放出されると低い方へと流れ下り、低い部分にたまることがあります。 希薄な噴煙の中でCO2の濃度の範囲は、 1ppmから対流圏のバックグラウンド値である約360ppmを超える数百ppmに及ぶ可能性があります (T. Elias pers. comm.; Oppenheimer et al., 1998)。 このガスの低層大気における存在期間は約4年です(Brimblecombe, 1996)。
CO2が有害となるレベルが高いので、CO2濃度はしばしば大気中における体積パーセンテージで表されます (1% = 10,000 ppmv)。
これは、他の火山ガスとは対照的なことです。
曝露の影響
二酸化炭素(CO2)は高濃度では有毒であるとともに、(酸素を減少させるために)窒息性の気体でもあります。 高濃度のときには、目、鼻、のどに刺激を与えます。 健康に影響を与える濃度閾値は、下の表にまとめてあります。
二酸化炭素を吸い込んだ場合の健康への影響
(Baxter, 2000; Faivre-Pierret and Le Guern, 1983 and refs therein; NIOSH, 1981).
曝露限界(大気中の体積分率: %) | 健康への影響 |
2-3 | 安静時には気づかないが、運動をしたとき著しい息切れが起きる。 |
3 | 安静時の呼吸が目立って深く頻繁になる。 |
3-5 | 呼吸のリズムが速くなる。曝露を繰り返すと頭痛を引き起こす。 |
5 | 呼吸が著しく苦しくなる。頭痛、発汗、跳び上がるような脈拍が生じる。 |
7.5 | 呼吸の増加、心拍数の増加、頭痛、発汗、めまい、息切れ、意識障害、脱力、眠気、耳鳴り。 |
8-15 | 頭痛、めまい、嘔吐、意識喪失、迅速な酸素吸入を施さない場合には死亡する可能性。 |
10 | 急速な呼吸困難を引き起こすとともに10分から15分で意識喪失。 |
15 | これ以上のレベルへの曝露は耐えられない致死濃度 |
25+ |
けいれんが起き、数回の呼吸で意識喪失となる。この濃度が維持されると死に至る。 |
既存のガイドライン
酸素が欠乏するため、高いCO2濃度のときのガスマスクの利用を制限されることになるでしょう。 そのため、濃度が体積割合で1.5%を超えたときは、作業場所、または、居住場所からすぐに避難するべきであると推奨されています (労働短期曝露限界値)。 CO2の環境基準はありません。 CO2濃度の労働基準は下の表に掲載されています。
CO2の労働基準
(濃度1% = 10000 ppm)
国/組織 | レベル % | レベル mg m-3 | 平均期間 | 基準の種類 | 施行時期 | 関連法規 | 注 | 文献 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
EU | 0.5 | 9000 | 8時間加重平均 | OEL | Commission Directive 91/322 | a | ||
英国 | 1.5 | 274000 | 15分 | MEL | ILV | b | ||
0.5 | 9150 | 8時間加重平均 | MEL | ILV | b | |||
米国 | 3 | 540000 | 15分 | STEL | 2003 | NIOSH | c | |
>0.5 | 9000 | 8時間加重平均 | PEL | OSHA Regulations (Standards - 29 CFR) | 1 | d | ||
0.5 | 9000 | 10時間加重平均 | REL | 2003 | NIOSH | c |
- http://europa.eu.int/comm/employment_social/health_safety/docs/oels_en.pdf
- HSE, 2002. Occupational Exposure Limits 2002. HSE Books, Sudbury.
- NIOSH Pocket Guide to Chemical Hazards (NPG). http://www.cdc.gov/niosh/npg/npg.html
- OSHA Standards Website
火山における事例
火山の噴火時や、火口、地面、溶岩流などからの二酸化炭素 (CO2)の放出は、 濃度が非常に高い場所や地表近くでガスが滞留している場所での災害を引き起こす可能性があります。 ガス放出は、自然にできた地形的なくぼみや洞穴、竪穴、もしくは建物の地下や戸棚などの閉鎖空間で発生したときが最も危険です。 Le Guern et al., (1982)は、古い割れ目火口のふもとの地域が特に危険度が高いと指摘しています。 CO2濃度の増加による死亡事故は、 (1973年のエルドフェル噴火の際に)ヘイマエイのヴェストマンナエイヤル、イタリアのブルカノ、米国のマンモス山、コンゴ民主共和国のニイラゴンゴなどで報告されています(表参照)。 CO2 による犠牲者リストの大半を占める3つの出来事は、カメルーンのニオス湖とマヌーン湖におけるガス噴出とディエンにおけるガス雲の発生です。 2つの湖におけるガス噴出は火山の文献の中でしばしば言及されますが、 これらのきっかけはそのときの火山活動とは無関係であると考えられています。 インドネシアのディエン高原における1979年の水蒸気爆発は、湖からのガスのあふれ出しに関係しないCO2関連の最悪の災害です。 この噴火では、CO2の雲が発生し、その地域から逃げようとしていた約142人の村人を襲い、さらに、彼らの遺体を回収しようとした人々の命も奪いました。 災害後間もなく活動的な割れ目火口で採取されたガスは、濃度が98-99%のCO2を含んでいました(Le Guern et al., 1982)。 イタリア、ベスビオ火山の1906年4月18日の噴火も、CO2が関連した死亡事故に含まれることが示唆されています。 Perret (1924)は、その噴火で発生したCO2が空気を"ほとんど息ができない"ものとして、ガスとそれに伴う細かい火山灰によって気管支炎にかかったばかりという病歴があった19歳が死亡したことを記録しました。 1986年の噴火活動の際に、コスタリカのコンセプシオン火山西斜面の大きな峡谷に沿って流れたガスは、のどの痛みと眠気を引き起こし、はっきりとはしないながらもCO2であると考えられました(Smithsonian Institution, 1986)。 インドネシアでは、CO2の雲が、タングバンパラフ火山の斜面を流れ下り、 ときどき子供の命を奪ったことが記録されています(Le Guern et al., 1982)。
地面からのCO2の放出は、高濃度である兆候がほとんどないことが多いため、 特に災害を引き起こしやすい傾向があります。
- コンゴ民主共和国・ニーラゴンゴ: 2002年の噴火の際、数地点で測定されたCO2濃度は、 20-30%から有意に致死濃度を超える90%まで様々でした。 地面からの CO2の発散は、現地の住民から、 "不吉な風"を意味するマズクという名前で呼ばれています。 高さ40mにも達するガスだまりが見つかっています。 噴火の前年のゴマとキブ湖地域におけるCO2の地面からの放出によって, 多くの犠牲者が出たものと考えられています(Baxter and Ancia, 2002)。
- イタリア・ブルカノ火山:1980年代、CO2放出によって動物(ウサギやヤギ)が死ぬことが時々あり、 子供2人も犠牲になりました (Baubron et al., 1990)。 1988年に夏の間多くの人が滞在するブルカノ火山でCO2を測定したところ、 火山周囲の地中と井戸内の濃度が、健康への被害が生じるほどの高さであり、 放出ガスは、ほぼ100%の濃度の場所もありました。 最大濃度はキャンプ場で観測され、このデータが地域行政に伝えられることによって、 山の周辺でのキャンプは禁止となりました。
土壌からのCO2ガスの放出は、 密閉された場所に拡散して、たまっていくことで、下の事例のように、 火山および地熱地帯の労働者や住民に被害を与えます。
- 米国・マンモス山: マンモス山地域の小さな雪に覆われた山小屋に入った人々から、 窒息死しそうになった事例が多く報告されています(Farrar et al., 1995; Sorey et al., 1998)。 1988年に雪の井戸の中でクロスカントリースキーをしていた人が死亡した事故は、 窒息が原因だと考えられています(Hill, 2000)。 遺体が発見された2日後に測定された井戸内部のCO2濃度は70%でした。 致死濃度はその山にあるホースシュー湖近くの山小屋内と地下室でも測定され、 その結果、その地域のキャンプ場は夜間利用が禁止となりました(Farrar et al., 1995)。
- ハワイ・キラウエア火山: 頂上の溶岩トンネルにおける計測では、CO2濃度は最大1%でした。 これは、TWA労働基準を有意に超える値で、火山の専門家は、このトンネルを測地中に 精神混乱と疲労感があったことを報告しています。 トンネル入り口から、地表直下にある地震でできた地下の空洞で測定されたCO2濃度は、 0.5%程度でした(米国地質調査所ハワイ火山患側所非公開資料による)。
- アゾレス・ファーナス:ファーナスカルデラで測定された土壌内のCO2のレベルは、 バックグラウンドレベル(<1.5%)から100%まで様々でした。 カルデラ内部にあるファーナス村の家の約3分の1は、 1993年にCO2の土壌からの放出量が増加した地域に位置しています。 いくつかの家の風通しが悪い閉鎖空間には、 窒息死を引き起こしうるレベルのCO2がたまっていました。 大規模で死亡事故を引き起こす可能性のあるCO2の流れが、 前触れなく起きる可能性があることが、測定によって示唆されました(Baxter et al., 1999)。
- ニュージーランド・ロトルア: 活動的な地熱地帯に位置するロトルアの複数の建物の中で、高レベルのCO2が測定されました。 ここでは、屋内の環境濃度として2%に達することがあり、ガス放出地域により近い場所では15%になります (Durand and Scott, 2003)。
- イタリア・アルバンヒル火山地帯:CO2濃度の上昇が、過去20年間におけるイタリア中部のラジオ地方における 少なくとも10人の死亡と関連があるとみなされています(Beaubien et al., 2003)。
1999年9月にローマ近郊の人口密集地域で、29頭のウシがCO2による窒息死したことで、 健康へ被害を及ぼす恐れのある場所を調べるための土壌とガスの調査が行われました。(Beaubien et al., 2003, Carapezza et al., 2003)。
この調査によって、アルバンヒルの北西側斜面の居住域では、地上1.5mの高さでのCO2濃度が 労働基準である0.5%をたびたび超えることが分かりました。
高さ0.75mでは、0.3-0.5%を頻繁に超えており(Carapezza et al., 2003)、 子供への被害の恐れが高いということが示唆されました。
火山からのCO2放出に関連した死亡ならびに傷病者発生事故
火山 | 時期 | 死者数/傷病者数 | 詳細 | 文献 |
---|---|---|---|---|
イタリア・ベスビアス | 1906年4月18日 | 死者1名 | 直前に気管支炎の病歴がある若者。火山灰との複合的な影響の可能性あり | Perret, 1924 |
ニアムラギラ(キツロ) | 1948年? | 負傷1名 | 火山学者が深さ2mの火口から意識不明者を引っ張り上げる | Le Guern et al. (1982) |
アイスランド・ヘイマエイ、ヴェストマンナエイヤル | 1973年1月23日 | 死者1名 | 溶岩とCO2の危険性のため5200-5300人が避難 | Thorarinsson, 1979 |
インドネシア・ディエン | 1979年2月20日 | 死者約149名 負傷1000名 |
避難途中でガス雲に追いつかれる | Cronin et al., 2002; SEAN 04:02 |
カメルーン・マヌーン湖 | 1984年8月16日 | 死者37名 負傷1名 |
湖からの放出。現地の住民は避難 | Sigurdsson et al., 1987 |
カメルーン・ニオス湖 | 1986年8月21日 | 死者1746名 負傷845名以上 |
湖からの放出。犠牲者以外、4430人が避難 | Othman-Chande, 1987 |
イタリア・ブルカノ | 1980年代 | 死者2名 | 2名とも子供 | Baubron et al., 1990 |
米国・マンモス山 | 1990年3月 | 負傷1名 | 土壌からのガス放出による高濃度CO2で、営林署職員が重度の窒息症状を示す | Sorey et al., 1998 |
パプアニューギニア・ラバウル | 1990年6月24日 | 死者6名 | (噴火なし) | Itikarai and Stewart, 1993 |
日本・八甲田 | 1997年7月12日 | 死者3名、病院搬送数名 | 犠牲者は日本の自衛隊員 (噴火なし) | Hayakawa, 1999 |
米国・マンモス山 | 1998年5月24日 | 死者1名 | 雪の井戸内のクロスカントリースキーヤー | Hill, 2000 |
イタリア・アルバンヒル火山地帯 | 2000年12月 | 死者1名 | 初老の男性が古い井戸に落ちてCO2による窒息で死亡 | Beaubien et al., 2003; Carapezza et al., 2003 |
コンゴ民主共和国・ニーラゴンゴ | 2002年1月 | 負傷2名 | 噴火に引き続いて生じたCO2放出で教会を清掃中の女性2人が失神 | BGVN 27:04 |
References
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