火山ガスの健康影響

火山地域・地熱地帯における火山ガスの健康影響:地域住民のためのしおり

このしおりは、火山地域や地熱地帯から放出される火山ガスならびにエアロゾルが健康に及ぼす悪影響について説明するため、 国際火山災害健康リスク評価ネットワーク(International Volcanic Health Hazard Network = IVHHN)が作成しました。 このしおりでは、あなたの家族やあなた自身を守るための基本的な情報を提供します。 これらの情報は、多くの研究所や保健・環境基準設置機関が集めた知見に基づいています。 お住まいの地域の状況に応じた情報は、お近くの保健医療サービス担当もしくは防災担当の公的機関にお問い合わせください。

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目次

1. 火山ガスとは?

2. 火山性のエアロゾルとは?

3. 酸性雨とは?

4. 火山噴出物の移動と沈着

5. 火山ガスとエアロゾルの健康への影響は?

6. 火山噴出物から身を守る対策

7. 火山噴出物の様々な影響

8. 参考文献と追加情報


  1. 火山ガスとは?

火山の中には爆発的な噴火を起こすものがあります。 このような噴火では、火山ガスと様々な大きさの岩のかけら(火山灰や軽石など)が混ざり合いながら勢いよく噴き出し、様々な被害が発生します。 火山ガスや溶岩を静かに放出する爆発性が低い噴火を起こす火山もあります。 火山ガスは噴火と噴火の間に放出されることもあれば、噴火終了後、数か月から数年にわたって放出されることもあります。 ただし、このような状況で放出される火山ガスの量は、一般的には噴火の時より少なめです。 火山からの放出物は大気汚染を引き起こし、人々や動物、農作物ならびに身の回りのものに被害を与えることがあります。

火山地域や地熱地帯からは、火山ガスや微小粒子などの様々な大気汚染物質が放出されます。 放出量が最も多い火山ガスは水蒸気です。量的には圧倒的ですが、害はありません。 その一方で、相当量の二酸化炭素 [CO2]、二酸化硫黄 [SO2]、硫化水素 [H2S]ならびに 微量のハロゲン化水素(塩化水素 [HCl]やフッ化水素 [HF])と一酸化炭素 [CO]も放出されることがあります。 地熱地帯では、地下浅部のマグマによって熱せられた地下水が、温泉や噴気となって長期間、放出され続けることがあります。 これらから発生する蒸気にも火山ガスが含まれています。 特に、二酸化炭素と硫化水素が含まれる場合が多いようです。 鉛や水銀のような金属も火山地域や地熱地帯からの放出物に含まれていることがあります。

溶岩が溶けたまま海に流れ込んでいる所では、溶岩と海水が激しく反応して、塩化水素ガスやフッ化水素ガス、火山ガラス粒子を含む大規模な酸性の噴気が発生します。 ハワイなどの地域では、これらの噴気は(ラバ[溶岩を意味する英語]とヘイズ[かすみを意味する英語]を組み合わせてできた)「レイズ」という名前で呼ばれています。

火山地域ならびに地熱地帯の中にはラドンが放出されるところもあります。 ラドンは地下深くでウランが崩壊することによって生成される放射性のガスです。 火山地域では、ラドンは二酸化炭素とともに地中から放出されます。 屋外では、ラドンと二酸化炭素は大気中に速やかに拡散し、大きな問題とはなりません。 しかし、建物などの密閉された空間では、ラドンと二酸化炭素は有害な濃度に達することがあります。

すべての火山ガスは無色です(すなわち、目には見えません)が、それぞれ特徴的な臭いがします

  • 二酸化硫黄 [SO2] - マッチを擦った臭い、もしくは花火の臭い
  • 硫化水素 [H2S] - 腐った卵の臭い
  • フッ化水素 [HF]・塩化水素[HCl] - 強く刺激のあるツンとした臭い
  • 二酸化炭素 [CO2]・ラドン - 無臭

  1. 火山性のエアロゾルとは?

二酸化硫黄ガスが火山から放出されると、大気中で反応して硫酸エアロゾルと呼ばれる微小な液滴もしくは浮遊固体粒子になります。 これらの火山性の硫酸塩は酸性であり、火山の風下側に不透明なかすみを発生させます。 このような大気汚染は、米国では「ボグ」(火山性スモッグまたは火山性の霧[フォグ])という名前で知られています。 風下側の遠方(百キロ以上)の地域ではエアロゾルによる影響がほとんどですが、より火口に近い地域では二酸化硫黄ガスとエアロゾル両方の影響を受けます。

大気中の硫酸エアロゾルの量は、PM2.5もしくはPM10 (直径2.5ミクロンもしくは10ミクロン以下の粒子状物質)のような非常に小さな粒子を測る装置で計測します。 PM2.5の大きさは、人間の髪の太さに比べると30分の1ほどしかありません。 このような小さな粒子は呼吸とともに肺の奥深くに入り込みます。 火山以外のPM2.5の発生源としては自動車の排気ガスや山火事による煙などがあります。 火山灰粒子は比較的、大きなものが多く、一部分だけがPM2.5やPM10に分類されます。


  1. 酸性雨とは?

火山ガスやエアロゾルを含む噴煙が発生している地域では、酸性雨が降ることがあります。 雨が二酸化硫黄などの酸性ガスによって酸性化されるからです。 火口近くでは、新鮮なレモンの絞り汁と同じくらい(pH2程度)の酸性度になることがあります。 酸性雨は皮膚や目を刺激し、チクチクとした痛みを感じます。 植物にも被害を与え、建物や自動車、農機具その他の資機材の表面に使われている金属の腐食を早めることもあります。 水質にも影響を与え、池の魚が死ぬこともあります。


  1. 火山噴出物の移動と沈着

噴火の際には、火山噴出物を含む噴煙は風下側に数百キロから数千キロも移動して大気汚染を発生させます。 その範囲は局所的な場合も遠隔地にまで達する場合もあります。 いずれの場合でも火山ガスとエアロゾルの濃度は、火山からの放出量や発生源からの距離、風向、風速でほとんど決まります。

火山地域ならびに地熱地帯の両方で、火山ガスは広い地域にわたって地面から直接、放出されることがあります。 二酸化炭素や硫化水素、ラドンなどのガスは大気よりも重いため、(例えば、地下室や洞窟、溶岩トンネル、雪穴、換気が悪い建物などの) 風通しが悪い閉鎖空間やくぼ地にたまって、大きな被害を発生させることがあります。 特に被害に遭いやすいのは、温泉を管理する作業従事者、身長の低い子供、温泉の利用客等です。 非常に稀なケースですが、火口湖の湖底にたまった大量の二酸化炭素が一気に放出されることがあります。 二酸化炭素は空気より重たいため山腹に沿って流れ下り、その通り道にいた人々や動物を窒息死させてしまいます。

フッ化水素ガスや塩化水素ガスは大気中で速やかに拡散して水に溶けます。 その結果、噴火があった地域の水の供給に影響を与える可能性があります。 フッ化物などの汚染物質が火山灰と一緒に放出される場合、それらの物質は火山灰の表面に付着して、 火山灰が放出されない場合よりもはるかに遠方にまで風で流されます。


  1. 火山ガスとエアロゾルの健康への影響は?

火山ガスやエアロゾルは吸い込んだり、肌に触れたり、目に入ったりすることで人々に影響を与えます。 健康への悪影響は、火山ガスの種類や濃度、接触時間、個々人の感受性(影響の受けやすさ)によって、軽度なものから重度なもの、死に至るものまで様々です。 火山ガスやエアロゾルの中には人間の鼻などの呼吸経路のフィルター機能で体外に排除されたり、分解、中和されたりすることで肺にまで到達する量が減少するものもあります。 しかし、二酸化硫黄ガスやフッ化水素、塩化水素ならびに火山性のエアロゾルは酸性で、気道などの湿った粘膜を刺激します。 二酸化炭素と硫化水素は窒息を引き起こします。

火山地域や地熱地帯に出かける際は、健康への影響が起きうることに留意すべきです。 応急手当が必要になる場合があるため、単独行動が推奨されない地域もあります。 周りの誰かが体調が悪くなったり気を失ったりした場合は、その場にいる全員が即座にその場を離れなければなりません。 倒れた人は安全な場所に移動させて、必要があれば救助を要請しましょう。

火山噴出物による一過性の健康影響

身体症状

二酸化硫黄 [SO2]

硫化水素 [H2S]

二酸化炭素 [CO2]

フッ化水素ならびに塩化水素 [HF/HCl]

粒子状物質 [PM]*

鼻、のど、目、皮膚への刺激

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咳、痰

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胸苦しさ、もしくは肺への刺激

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息切れ

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頭痛

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喘息の増悪(喘鳴)

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疲労感、目まい

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呼吸促迫

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吐き気

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心血管への影響(高濃度の場合)

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*PM - 粒子状物質には火山性の硫酸エアロゾルが含まれる。 いくつかの影響に関する根拠は主に都市の大気汚染に関する研究より得られたものである。

詳細情報

二酸化硫黄 二酸化硫黄に対する感受性(影響の受けやすさ)は個々人によって大きな差がありますが、 喘息患者は特に影響を受けやすく、症状を悪化させる可能性があります。 喘息患者が火山地域に入る際には、発作を起こしたときに適切な手順で対応できるよう、治療薬などを持参するようにしましょう。 喘息でない人々も(国ごとに決められている)推奨大気環境基準以上の濃度の二酸化硫黄にさらされることは避けるべきです。 高濃度(概ね40ppm以上)を吸い込んだ場合は、吐き気や嘔吐、胃痛ならびに気道や肺の損傷を引き起こすことがあります。 (100 ppm以上のような)非常に高い濃度の場合、急激な意識喪失や肺水腫、死亡を引き起こすことがあります。 二酸化硫黄と微小粒子の両方に同時にさらされると、健康への悪影響が増大する可能性があります。 低濃度の火山性の二酸化硫黄に継続的にさらされることの長期的な健康影響については分かっていないことが多いため、現在、調査が進められています。

硫化水素 (100 ppm以上の)高濃度の硫化水素を吸い込んだ場合、もしくは低濃度でも長時間に及ぶ場合は、嗅覚が麻痺することがあります。 すなわち、独特の“卵の腐った臭い”は感じなくなることがあるため、臭いの強さで危険性を評価するのは誤った判断につながります。 繰り返し吸い込むと、以前は悪影響を受けることなく耐えられていた濃度でも健康への悪影響が表れることがあります。 米国労働安全衛生局(OSHA)では労働者の許容値を20 ppmに設定していますが、 2-5 ppm程度の低濃度でも目への刺激、頭痛、吐き気ならびに喘息患者における呼吸障害を引き起こす可能性があると指摘しています。 濃度が上昇するに従い、倦怠感や食欲喪失、目まい、気道の刺激などの症状も起きる可能性があります。 (500 ppm以上の)非常に高濃度を吸い込んだ場合、突然、意識を失うか、もしくは数分以内に死に至ることがあります。

二酸化炭素 二酸化炭素は地球上の大気にも、400 ppm(0.04%)程度、含まれていますが、50,000 ppm(5%)を吸い込むと、呼吸困難、頭痛、発汗、心拍数の増加を引き起こします。 さらに濃度が上昇すると、目まい、筋力低下、精神錯乱、眠気、耳鳴り、嘔吐を引き起こします。 非常に高濃度(100,000 ppm すなわち10%以上)の場合、急速な意識喪失、窒息ならびに死亡を引き起こします。

塩化水素・フッ化水素 これらのガスは通常、火山噴煙には少量しか含まれていませんが、皮膚や目、鼻、のどならびに肺に急性の炎症を引き起こします。 溶岩が海に流れ込んでいる場所の近くでは、特に注意が必要です(1章参照)。 非常に高濃度(50-100 ppm)の塩化水素は気道の腫れや肺水腫(肺の中に水が溜まって、膨れた状態)を引き起こし、死亡することもあります。 フッ化水素の場合、50 ppm以上の濃度であれば、ほんのわずかの量を吸い込んだだけでも生命に危険が及びます。

硫酸エアロゾル 都市大気汚染に関する研究において、PM2.5 もしくはPM10を吸い込むことで、 短期であっても長期であっても呼吸器・心血管疾患ならびに若年死亡を引き起こす可能性が示されています。 硫酸エアロゾルが、都市における粒子状物質と同様の影響を健康に与えるのかについては、まだよく分かっていません。

ラドン ラドンガスを短期間、吸い込んだだけでは症状は生じませんが、濃縮された状態(例えば、屋内)でラドンを長期間、吸い込むと肺がんの原因となります。

上に示した、それぞれのガスに関する様々な大気中濃度での影響は、米国の有害物質・疾病登録局(ATSDR) によるものです。 下のサイトもご覧ください: https://www.ivhhn.jp/2018/information/information-different-volcanic-gases

感受性が高い人々

大気汚染の影響の受けやすさは個々人によって大きな差があり、特に体調を崩す可能性が高い属性の人々がいます。 そのような感受性が高いグループには下の人々が含まれます:

  • 喘息患者、呼吸器や心臓に持病がある方
  • 高齢者
  • 小児・乳幼児
  • 妊婦

火山ガスにさらされると、持病の症状が悪化することがあります。 高齢者は肺や心臓の機能が低下しているので、火山ガスの影響を受けやすい可能性があります。 子供も大人より火山ガスの影響を受けやすい傾向があります。 子供は活動的で呼吸が速い上、体の大きさに対する肺の比率が大人よりも大きいためです。 子供の鼻はフィルター機能が未発達な上、口呼吸をする傾向が高いため、火山ガスや微小粒子を効率的に除去することもできません。 これらの感受性が高いグループの人々は特に注意して、火山地域では推奨された行動に従いましょう(次章をご覧ください)。


  1. 火山噴出物から身を守る対策

事前の備え

  • 危険性を理解する :
    • 大気の状況(例えば二酸化硫黄や粒子状物質の濃度)の監視や天気予報に関するウェブサイトをよく把握しておきましょう。 風向きが変わることで、あなたのいる地域に火山ガスが流れてくることもあります。
    • 火山の状況に関する最新の情報を入手しましょう。火山ガスやエアロゾルの濃度にも留意しましょう。 噴火や火山ガス放出の状況は急に変化することがあるので、常に気を付けておきましょう。
    • 火山ごとに状況は違います。注意すべきガスの種類が違うことがあることを意識しましょう。
  • 一般的な災害への備えを整える :
    • あなたの地域の防災や健康管理に関する最新の情報を入手するようにしましょう。
    • 災害時の避難や籠城(ろうじょう)に備えて、非常持ち出し用品(食料や水、常備薬など)を準備しましょう。
    • 避難計画を作りましょう。必要物資の荷造りをして、家族やペットが迅速に避難できるように準備しておきましょう。
    • 家族どうしが連絡を取る方法などについて家族で話し合い、どのように行動するか計画を立てておきましょう。
    • 必要な医薬品を手元に準備しておきましょう。 喘息などの呼吸器や心臓の持病がある場合には、発作の治療薬を使えるように準備し、処方された通りに利用しましょう。 必要だと思う薬が手元にないときには、かかりつけの医師に相談しましょう。

自分の身を守る

  • 自己管理をする :
    • 喫煙は控えましょう。受動喫煙も避けましょう。
    • 脱水症に気を付けましょう。血流を良くするために水分を十分に取りましょう。 状況によっては、温かい飲み物の確保も検討しましょう。
    • 鼻づまりや目の炎症を抑えましょう。市販の点鼻薬や目薬で症状を和らげられることもあります。
    • 持病がある人は体調に特に注意しましょう。必要な場合は、かかりつけの医師に連絡しましょう。
    • 胸の痛みや目まい、脱力感、呼吸困難などの異常を感じた場合は、医療従事者に相談しましょう。
  • 接触機会を少なくする :
    • 活火山や噴気の周辺で高濃度のガスの中に入ってしまったと気付いた場合には、ガスの臭いを避けるように風上側に移動しましょう。
    • 大気環境が良くないときには、負荷の大きな作業は控えましょう。 野外活動や運動、作業によって火山ガスやエアロゾルの影響を受ける可能性が高くなります。 屋外にいる間は鼻で呼吸をするように心がけて、口で息をしないようにしましょう。
    • 屋外の大気の状態が良くないときは、屋内に留まりましょう。 すべてのドアと窓を閉めて、外気が入る大きな隙間は(例えばガムテープやビニールシートで)目張りをしましょう。 建物を密閉したために暑くなりすぎていないか注意しましょう。 建物は十分に密閉されていなくても、ある程度の効果はあると思われます。 しかし、可能であれば、より密閉性が高く空調施設が整った建物(例えば商業施設やオフィスビル)に移動することを検討しましょう。
    • 建物の中にある空気の状態を悪化させる要因(例えば煙草やろうそく、線香、煙突がない料理用または暖房用のストーブなどの煙や一酸化炭素を発生させる器具)を減らすようにしましょう。
    • 空気清浄機で屋内の空気をきれいにしましょう。 可能であれば、ドアや窓を閉めて空気清浄機を使い、建物に入ってしまったガスやエアロゾルの濃度を低下させましょう。 粒子を減らすには高性能フィルター(HEPAフィルター)が必要です。 二酸化硫黄濃度を下げるには、空気清浄機に酸性ガス用のフィルターを取り付ける必要があります。 (外気の取り込み口を閉めて屋内空気を再循環するように設定した)エアコンや除湿器も屋内の空気の状態を良くするのに役立ちます。
    • 屋外の大気状態が改善したら、建物のドアや窓を開けて換気をしましょう。
    • 必要があれば、危険地域を離れましょう。 屋内の大気環境が悪い場合には、影響が小さい地域への一時的な移転を検討しましょう。
    • 車の中に火山ガスやエアロゾルが入らないようにしましょう。 影響が大きい地域を運転しているときは、しばらく窓や換気口を閉め、ファンやエアコンも切りましょう。 車を密閉したことで暑くなりすぎないように気を付けましょう。
    • 防塵用のマスクでは火山ガスは防ぐことができませんが、エアロゾルや火山灰に対しては役に立ちます。 詳細は下のウェブサイトをご覧ください: www.ivhhn.jp/2018/ash-protection.html 有毒ガス用に作られたマスクも販売されていますが、一般市民向けではありません。 ガスマスクを安全に使うためには、用途に応じた適切なマスクやフィルターカートリッジを選ぶ必要がある上、 装着テストや適切な使用方法、手入れ、保管に関する研修も受ける必要があるからです。
    • 子供の体調に変化がないか、気を付けましょう。 野外活動を制限したり、屋内に留まらせたり、危険地域から離れたりすることを大人が指導して、子供が火山噴出物に接触する機会を少なくしましょう。
    • 自宅などの建物が地熱地帯にある場合は、屋内でのラドンと二酸化炭素の濃度が高くならないようにするために、性能の良い換気装置を設置することが重要です。 ラドン濃度が高い地域では、屋内のラドン濃度を計測するよう勧告される可能性があります。


  1. 火山噴出物の様々な影響

飲み水への混入

  • 酸性雨: 酸性雨は金属の屋根や排水システムから鉛などの有害な金属を溶かし出し、飲み水に混入させることがあります。 もし鉛を含む釘や雨よけ、塗料などの部材を屋根に利用しているのであれば、屋根から水を集める装置に接する部分のものを取り外す必要があります。 もし可能であれば、酸性雨や火山灰が降り始める前に集水管をタンクから取り外し、降りやんだ後に接続し直しましょう。
  • 健康への影響: 火山噴出物の混ざった水を飲んだ人々の間で、胃腸の調子が悪くなる問題(吐き気や嘔吐、胃痛、下痢など)が発生することが報告されています。 これは、おそらくは溶け出した金属の影響です。 火山噴出物が混入することで飲み水のフッ素濃度が上昇することもあります。 このような水を定常的に摂取するとフッ素症を引き起こし、歯や骨の成長を阻害する可能性があります。 そのような可能性があるとしても、水が得にくい地域では、屋根で集めた水が最も安全な可能性もあります。
  • 健康へのリスクを低減する行動: 断水が起きた場合にはペットボトルの水か、沸騰、ろ過もしくは殺菌をした水を利用しましょう。 屋根から集めた水を飲み水に用いる場合には必ず除菌もしくは滅菌をしましょう。 リスクが高い地域では、可能であれば、飲み水のフッ素などの混入量について、認証を受けた施設で化学検査をしてもらいましょう。 特に、8歳以下の子供が利用する飲み水については、このような検査が大切です。 また、長時間(例えば一晩くらい)水道管の中に留まっていた水は溶け出した金属の濃度が高くなっている可能性が高いので、水をしばらく流してから使いましょう。

現地の動物や家畜、植物への影響

  • 酸性の噴出物: 酸性のガスやエアロゾルもしくは酸性雨は家畜や農作物、花や樹木に悪影響を及ぼすことがあります。 植物では、種類によっては数時間で被害が出ることもあります。野ざらしのものが最も被害が大きくなりますが、マルチなどで覆いをした農作物でも火山ガスで傷むことがあります。 植物の場合、すぐにきれいな水ですすげば、被害を小さくすることができます。
  • 動物への影響: 草食動物の場合、火山ガスを吸い込んだり、火山噴出物が混ざった水やえさを食べたりすることで、フッ素や硫黄の過剰摂取の影響が表れます。 長期間、フッ素を過剰摂取すると、歯や骨にフッ素症と呼ばれる症状が表れることがあります。 短期間に非常に高濃度のフッ素を摂取すると急性フッ素中毒で死亡する可能性があります。 硫黄の含有量が多い食料や水もしくは環境から硫黄を過剰に体内に取り込むと、神経障害やミネラルバランスの悪化を引き起こします。 二酸化硫黄ガスを吸い込むことで動物も呼吸器障害が起こすことがあります。
  • 動物へのリスクを低減する行動 : 動物への影響を小さくするには、水や食料を清潔に保つことが大切です。 火山ガスなどから保護するため、農場ではえさに覆いをしましょう。 家畜やペットについては、特に目、歯、消化器ならびに呼吸器に異常がないか、健康状態をよく観察しましょう。 動物に栄養補助食品やミネラルを与えるべきかなどについて、必要に応じて獣医に相談しましょう。 可能であれば、安全な地域に動物を移動させることを検討しましょう。

社会基盤への影響

火山噴出物や酸性雨は農場や建物、公共施設の設備などに含まれる金属を著しく腐食させます。 劣化しにくい代替品に交換することで被害を軽減できる場合があります。


  1. 参考文献と追加情報

本文の内容は、下に示した学術機関や保健ならびに規制に関する行政組織等が公表しているガイドラインに基づいています。

Agency for Toxic Substances and Disease Registry (USA), Toxic substances web portal for hydrogen sulfide (CAS#:7783-060-4); sulfur dioxide (CAS#:7446-09-5), hydrogen fluoride (CAS#:7664-39-3) and hydrogen chloride (CAS#:7647-01-0),? 2018.

California Environmental Protection Agency, Office of Environmental Health Hazard Assessment (USA). Evidence on the developmental and reproductive toxicity of sulfur dioxide SO2 factsheet. 2011.

College of Tropical Agriculture and Human Resources, University of Hawaii. Volcanic Emissions website. 2018.

Hansell, A., Oppenheimer, C. (2004) Heath Hazards from Volcanic Gases: A Systematic Literature Review.? Archives of Environmental Health, 59(12), 628-639.

Kullman, G. J., Jones, W. G., Cornwell, R. J. & Parker, J. E. (1994)?'Characterization of Air Contaminants Formed by the Interaction of Lava and Sea-Water',?Environmental Health Perspectives,102(5), 478-482.

Occupational Safety and Health Administration (USA) Hydrogen Sulfide hazards website, 2018.

National Fluoridation Information Service (New Zealand) Dental fluorosis ? is it more than an aesthetic concern? NFIS Advisory, 2014.

National Research Council of the National Academies (USA). Acute exposure guideline levels for selected airborne chemicals. Volume 8. Chapter 9: Sulfur dioxide, 2010.

U.S. National Institute of Health, National Library of Medicine. Carbon dioxide haz-map, 2020.

World Health Organization, Air quality guidelines for particulate matter, ozone, nitrogen oxide and sulfur dioxide: global update 2005: summary of risk assessment. ISBN 92 890 2192 6, 2005.

World Health Organization, Review of evidence on health aspects of air pollution ? REVIHAAP Project report, 2013.


関連する情報にご興味のある方は、下のホームページをご覧ください:

火山灰による被害と対策について: https://www.ivhhn.jp/2018/ash-pamphlets.html; https://volcanoes.usgs.gov/volcanic_ash/

火山ガスについて: https://www.ivhhn.jp/2018/information/information-different-volcanic-gases.html

各地の火山観測所について: http://www.wovo.org/observatories/

火山専用の二酸化硫黄濃度の色分け表示例と実施すべき対応行動について: http://www.hiso2index.info/assets/FinalSO2Exposurelevels.pdf


本サイトの情報は、バーナデット・ロンゴ氏(米国・ネバダ大学)、タマ―・エリアス氏(米国地質調査所)ならびにクレア・ホーエル氏(英国・ダラム大学)が執筆し、 ファティマ・ビビエロス氏(ポルトガル・アゾレス大学)、ピーター・バクスター氏(英国・ケンブリッジ大学)、石峯康浩氏(日本・鹿児島大学)、 キャロル・スチュワート氏(ニュージーランド・マッセイ大学)、エブジェニア・イリンスカヤ氏(英国・リーズ大学)、トロルフル・グドナソン氏(アイスランド健康局) ならびにデービッド・ダンビー氏(米国地質調査所)とその同僚によって組織された専門家委員会が精査いたしました。 イラストはピエール・イブス・トーニガンド氏に作成していただきました。記して感謝いたします。 本文は2020年6月2日に更新いたしました(日本語版公開は2025年3月13日です)。.